法人紹介

第3章 あせらず伸びゆく力を持つ

3-5 本当の自律心が育つとき

先日、保育園で起こった出来事です。朝、おじいちゃんと一緒に登園してきた女の子に、

同じクラスの男の子が「おはよう !」ではなく、「ハナクソ !」と言ってしまいました。どちらも年長組です。女の子は悲しくなり足が止まり、おじいちゃんは男の子に、「そんなことを言ってはいけない」ときつくしかったそうです。

若い保育士からその報告を受けた私は、おじいちゃんに「よく言ってくださった。よその子をよくしかって下さった」と感謝の気持ちでいっぱいでした。自分の衝動をコントロールする、そして、自分で自分を律することのできる年齢です。言ってしまった子にも言われてしまった子にも自尊心を傷つけず、上手に注意してくださったおじいちゃんは「さすが!」と思いました。

規則にあるからとか、先生にしかられるからなどでコントロールされるのではなく、自分でするから自律なのです。小さい時から身の回りのことが早くできる子が、自律心のある子どもということではありません。前にも、〝親子遠足”で触れましたが、依存経験をたっぷりと安らかな気分で体験した子どもこそが、本当の意味でしっかりとした自律心を身に付けるのではないでしょうか。子どもの甘えや要求を周りの大人がしっかり受け止め、くみ取ってあげなければ、子どもに自律を求めるのは無理です。

何事もうまくできない子どもに大人側の要求を性急に伝えようとして焦ってしまうのではなく、少しの前の時期にさかのぼったり、不足していた甘えや依存の心を補ってあげる。ゆったりとした育て方が大切であるということがお分かりいただけるでしょう。

私たち大人は、戦争という大きな過ちを犯してしまったけれど、子どもたちには争いのない穏やかな社会を引き継いでもらえるように、相手を思いやる大きな愛を持った子どもへと育ててゆきましょう。毎年8月には、原爆投下の日、沖縄地上戦、終戦記念日などが幾度となく報道されています。私も広島・長崎の記念館を訪れ、歩を進めて行くうちになぜか涙があふれ、動けなってしまった経験があります。小学生くらいの男の子が私の前に立ち、けげんそうに私を見上げていました。もっともっと生きたかったのに、悲惨な最期を遂げてしまった多くの人々のためにも、私たちがこれからすべきことは、たくさんあるはずです。8月は、祈りと悲しみと希望が私の心の中で交差しています。